DAKS LOVER TALKS

DAKSの創業125周年を迎えるにあたり、ファッションディレクター、森岡 弘さんが、DAKSにまつわる素敵な方々と対談。それぞれの視点から、125年に亘るブランドの知られざる魅力に迫ります。

PROFILE
永宮 陽子
イラストレーター。京都女子大学短期大学部卒業後、1997年 Masa Mode Academy of Art研究科を経て、イラストレーターに。繊細かつ大胆な線の美しさ、迷いのないストロークで、人物、都市、風景、インテリアなどを描写。優雅さ、女性らしさの本質を捉えた作品は世界中の女性を魅了している。JO MALONE、CHANEL、Van Cleef &Arpels、MIKIMOTOなどをクライアントに持つほか、VOGUE、Harper’s BAZAAR、ELLEなどのファッション誌に作品を提供。

DAKSの歴史において重要な意味を持っていたのがイラストレーションによる広告です。2018年春夏シーズン、DAKSは再び、美しいイラストを世界的に展開。流麗なタッチで新たなDAKSの世界を表現した永宮陽子さんに森岡 弘さんがブランドとの関りや、創作の裏側をお聞きします。

DAKSのイラストで夢が叶った

張り切りすぎないように、自然体でDAKSのイラストに取り組んだと語る永宮さん。彼女の見事なイラストは2018年春夏シーズン、ワールドワイドに展開されました。

森岡
日本だけではなく、世界中のカスタマーの目に触れる大きな仕事ですよね。
永宮
雑誌の表紙をめくって最初の見開きに自分のイラストを使ったファッションブランドの広告が掲載される。これって、イラストレーターにとっては夢です。
森岡
スタイリストも同じです(笑)。そのシーズンのキーを背負っているわけですからね。
永宮
1番にランクインする夢が今回叶ったので、いまはシーズンが終わって残念。次はなにを夢にしましょうか(笑)。
森岡
どれくらいの期間を要されましたか?
永宮
お話をいただいたのが2017年1月頃です。そこから打ち合わせがスタートして、納品が9月。製作期間としては長めですね。
森岡
通常だとどれくらいですか?
永宮
広告の場合、長くても2か月くらいだと思います。
森岡
すると、やはり長め。とはいえ、必要なイラストは8点と多いですね。
永宮
はい。打ち合せを始めた当初は、お洋服のサンプルが完成していない状態でした。
森岡
つまり、すぐに着手できなかったと。
永宮
そうです。その状態がしばらくあって、実際に描き始めたのは6月頃でした。

膨大な資料を基に
描かれたイラスト

永宮さんの普段の作風は線が細く淡い色彩が主流。ところが、いつものタッチだと大きなビルボードには不向きなため、線を太くして、はっきりした色調を使うように心がけたといいます。

森岡
構図はスムーズに?
永宮
構図は悩みました。普段、私は描く前にすごくたくさん資料を用意します。8点を描くにあたって揃えた、切り抜きや雑誌など紙の資料だけでも積み上げると高さ50cmくらいでしょうか。
森岡
それは多い!
永宮
資料は主にポーズの研究のためで、インターネットでも同じくらいの量の資料を集めます。いろいろと研究して、ベストなポーズと構図を引き出します。
森岡
イラストに登場するお洋服が決まってからの作業はいかがでしたか?
永宮
2017年6月、イラストに登場するお洋服を決める打ち合わせがロンドンで行われ、私も参加しました。1点1点、このお洋服は絵になるな、など確認ができたので、実際に拝見してよかったです。紳士服のなかには細かいチェックで遠目に見ると無地に見えるものがあって、それよりはこちら(別のもの)のほうがイラスト向きかな、なんて思ったのを覚えています。打合せを終えて帰国して、完成までの期間は2か月くらいでしょうか。
森岡
2か月で8点描くのは、なかなか大変では?
永宮
大変ではありますが、じっくりと考える時間はありましたから。

ロイヤルアスコットの
経験を作品に反映

DAKSの世界観を表現するため、永宮さんは英国王室主催のイベント、ロイヤルアスコットへ足を運んでいます。その際の裏話に森岡さんも興味を引かれたようです。

森岡
イラストを描く際にテーマはあったのでしょうか?
永宮
テーマは英国の社交シーズン。ちょうどロンドンに行ったときにロイヤルアスコットと言う社交の場を見られる機会があったので、スケッチをしてきました。社交の場なので、受付の方に「1人で来たの?」と言われました(笑)。
森岡
あはは。お1人でしたか。
永宮
「あの、スケッチしに来ました……」と答えました(笑)。そのときは30年ぶりと言われる猛暑で、たくさんはスケッチできませんでしたけれど、独特の雰囲気は味わえました。
森岡
写真じゃなくて、スケッチ?
永宮
そうです。電車で向かう道中も、黒いスーツを着た紳士が隣にいらして。その方はアスコットに近づくと、シルクハットを取り出してボウタイを締めて、降りるときにはバッチリと正装。そんなシーンを見ることができたのも収穫でした。
森岡
海外には着替える文化があって、1日に何回か着替える方もいらっしゃる。日本とはライフスタイルが違いますね。
永宮
日本の競馬場では、あんなお洒落な方は見かけません(笑)。
森岡
そうですね。着飾る楽しみと生活の楽しみが重なっています。日本だと着飾っても、それを着てどこへ行けばいいんだろう? と考えてしまいますから。特に夜のフォーマルをスタイリングしていると、こういうものを着てどこかへ行けたらもっと楽しいのに、と思います。イラストの世界では背景も含めて自由自在に洋服を描けていいなあ。
永宮
そうですね。自分が着たいと感じた服を選んで描いています。

自分らしい作品が生まれるまでの苦労

クオリティを追求してきたDAKS。二人の対談は永宮さんの「マイ クオリティ」についてへと進みます。

森岡
想像を膨らませるイラストのお仕事は、きっと楽しいでしょうね。
永宮
小さい頃からそう考えて描いていました。
森岡
イラストをお描きになる際の自分らしさやこだわりは?
永宮
線画が好きなので、きれいな線、いい線を描くように心掛けています。いまは1枚で描けるようになりましたが、それまでは1本の線を描くのに何枚も失敗しました。
森岡
1回失敗すると、消しゴムで消して書き直すとか?
永宮
それはしません。紙がもったいないですが。
森岡
今回の対談のテーマはマイ クオリティです。そうしたご自身のこだわりはクオリティにつながりますか?
永宮
つながります。また、実際に行ってみて、空気感をつかむと言うことも大切です。たとえばロイヤルアスコットも、いまはインスタグラムを見れば非常にきれいな写真が揃っています。でも、足を運ぶことが最終的にクオリティに重要ではないでしょうか。
森岡
リアルな体験をしておいた方がいいですよね。それが線になり、イラストになるから。

日常の風景が詰まった
スケッチブック

対談で永宮さんが普段から描き溜めているスケッチを見た森岡さん。そのクオリティの高さは彼を驚かせました。

森岡
ラフなのに、遠近感の表現なんかが見事ですね。永宮さんにとってスケッチは楽しい時間ですか?
永宮
楽しいですね。これはロイヤルアスコットの芝生の上の様子です。私が入ることができたカジュアルなエリアのスケッチです。次はDAKS本店の向かいの風景で待ち合わせのときに立って描きました。
森岡
おや、これは?
永宮
ロイヤルアスコットのチケットをスケッチブックに貼っておいたものです。
森岡
ラフばかりじゃないですね。あ、馬も。
永宮
凄く勢いがありましたよ。40分から50分に一度レースが行われて、その瞬間は会場がより盛り上がります。
森岡
なかなか見られないものでしょうからね。
永宮
そうです。次は会場の外で見かけた生演奏の様子です。会場の外でも楽しめるようになっていました。
森岡
英国の方は楽しむ心があるといいますか、楽しみ方が上手ですね。
永宮
朝6時ごろ、空港に向かうときに素敵な学生さんも見かけました。これです。夜通し遊んだ後に見える様子なのに、歩き方はすごくきれいでした。
森岡
英国にいる友人に子どものパンツのポケットを親が縫って口を閉じてしまうと聞きました。すると、ポケットに手を入れない習慣がつく。ポケットに手を入れると背中が丸くなって、堂々として見えません。手を入れないだけで、姿勢が良くなって歩き方がきれいになるわけです。
永宮
素敵ですね。
森岡
これがササッと描けるのですか?
永宮
これはタクシーの中で。一瞬だったので、パッと見てあとは印象で描きました。
森岡
十分、作品として完成していますよ。

チャーミングな男性を意識した
DAKSのイラスト

普段、女性を描いている永宮さんは、男性を描くお仕事にどのように取り組んだのでしょうか。

森岡
作品を描くときに、タッチや構図などで自分らしさを意識しますか?
永宮
DAKSではメンズもたくさん描かせていただきました。普段はほとんど女性を描くイラストレーターなので。
森岡
男性を描く機会はあまりない?
永宮
オファーを受けて描くことはあまりありませんでした。ずっと大人の女性を描きたいと思っていたので、人物を描く場合は9割以上が女性。自分がこうなりたいと思う女性を描いています。
森岡
僕もです。こんな洋服が似合う男性になりたいと思ってコーディネイトしますから(笑)。そんな女性の横に描く男性像は?
永宮
やはり、こんな男性がいたらいいなと(笑)。
森岡
僕が男性のスタイリングで意識するキーワードはユーモアと色っぽさ。色っぽさは時代とともに変わると考えています。胸元をはだけさせず、ボタンをすべて留めてもセクシーさは表現できるのです。今回、永宮さんがイラストを描く際にキーワードはおありでしたか?
永宮
DAKSと言えば伝統があるので、とてもシックなイメージを持っていたのです。自分の印象に基づいたシーンばかりを想定していたところ、ロンドンのアーカイブ室でマックス・ホフさんの描いた広告をたくさん拝見しました。作品は、すごくユーモアがあってポップで。とても表情がチャーミングな男性が描かれていますね。そこで、ぜひホフさんの描かれたイメージは取り入れたいと思いました。
森岡
チャーミングっていいキーワードですね。
永宮
とてもいいです。でも、難しい。
森岡
僕の知人の英国の方が、なかなかチャーミングなのです。育ちがいいのか、精神的な余裕なのか。いつもニコニコされていて、いいな、僕もそんな風になりたいなと。じゃあ、男性を描かれるときは女性とは意識が違うわけですね。
永宮
セクシーばかりに寄らない雰囲気を表現したいかな。といいつつ、理想の男性像を含めつつ描いてしまいます(笑)。

1950~60年代のイラストに憧れて

DAKSが久しぶりにクローズアップしたイラストレーション。永宮さんが選ばれたのはどうやら運命的なものだったようです。

森岡
今回、イラストレーターの候補が20名ほどいらしたなかから、永宮さんが選ばれたそうですよ。
永宮
それは初めて聞きました。
森岡
DAKSはイラストの広告展開がお上手でした。今回はかつてと同様のアプローチに、改めて挑戦してみようとのキャンペーン。その流れの中で全世界に展開するイラストレーションを描く方として選ばれたなんて、素晴らしいではありませんか。
永宮
ありがとうございます。もともと、私は1950年代、1960年代のファッションイラストレーションが大好きで、そちらの流れを汲んでいると自分でも思っていました。一番ファッションイラストレーションが華やかな時代でしたから、この頃に生まれたかったです。
森岡
その時代に人気の広告手法だったイラストレーションに、再びスポットが当たるキャンペーンで、永宮さんが選ばれたのは運命ですよ。
永宮
本当に光栄です。
森岡
ご自分の作品を、仕事場以外で見かけることはありますか?
永宮
あります。作品は自分の子どもと言う方と、分身と言う方がいらっしゃいます。私の場合は分身で、見ると少し恥ずかしさを感じます。でも、うれしいです。私は飛行機のなかで、自分の作品が乗った機内誌を偶然見ました。お隣の方も御覧になっていて、あっ、と(笑)。大きな作品は三共生興さんの本社で見ることができました。
森岡
素晴らしいですね。海外で見る機会はおありでしたか?
永宮
実物ではありませんが、ロンドン本店の看板は英国在住の知人が、写真を撮って、送ってくださいました。
森岡
僕は自分が手掛けたDAKSのカタログのビジュアルが、帝国ホテルプラザの大きな看板になっているのを見つけたときに、感慨深くて気分が高揚しました。思わず、写真も撮って(笑)。

親子をつなぐ
約30年前のDAKSのコート

対談にあたり、永宮さんが持参した一着のコート。それはお母様が30年ほど前に購入したものでした。DAKSと永宮さんの出会いは、このときから始まったそうです。

永宮
「DAKSのコートを買ってきたのよ」と。母はDAKSが好きで、ずっとブランド名だけは聞いていました。
森岡
お洒落なお母様! きっと、特別な思いで購入なさったのではないでしょうか。
永宮
きっとそうですね。トレンチコートが欲しくて買いに行ったと言っていました。
森岡
リバーシブルのコートで裏面はチェック。お母様は無地の面で着ていらっしゃる?
永宮
そうです。チェックを表面にしては着ないからと、そちらの面のボタンを外しています。でも、また私が付けてもいいでしょうし。
森岡
ベルトが付いていますから、ボタンがなくてもチェックの面でガウンのようにベルトで絞めて着るのも素敵ですよ。なにより、親子で一緒に使えるのはいいと思います。
永宮
はい、今日は私が着てこちらにきました。借りて、そのまま自分のものになれば(笑)。
森岡
海外の方は洋服を受け継ぐと聞きます。たとえばお父さんから息子へ。いいものは自分だけではなく、次世代に継承するそうです。
永宮
宝石だと聞いたことがあります。
森岡
貴金属、ジュエリーだけでなく、洋服にも同様の思いがあるようですよ。上質な洋服を購入して長く着る。これは英国が受け継いでいる洋服に対しての意識ですね。ですから、ぜひお母様のコートを受け継いでご愛用ください。

DAKSのイラストを描いた永宮さんとブランドの結びつきは仕事だけではありませんでした。親から子へと受け継がれる上質な製品を届けたい。永宮さんが着用されていた約30年前のコートは、まさにDAKSの願いを象徴するものでした。125年間、DAKSが多くの人に愛されてきた理由が、今回の対談からも伝わったのではないでしょうか。

PROFILE
森岡 弘
株式会社グローブ代表取締役、ファッションディレクター&スタイリスト。株式会社婦人画報社(現ハースト婦人画報社)にて男性ファッション誌メンズクラブ編集部でファッションエディターとして従事。退社後はクリエイティブオフィス 株式会社グローブを設立しファッションを中心に活動の幅を広げる。現在はブランドのコンサルティングや雑誌・広告の企画立案、プロデュース、スタイリングの他、男性・女性の俳優、ミュージシャンなどの芸能人からスポーツマン、文化人、政治家、企業家など、個人のスタイリングまでも行なう。またイベントのコスチュームや企業のユニフォームデザイン、トークショー、書籍の出版、セミナー講師とその活動は多岐にわたる。

DAKS 125 周年
アニバーサリーイベント開催

DAKS は「The Story of DAKS ~DAKSが紡ぐ物語~」と題し、創業125周年アニバーサリーイベントをGINZA SIX 蔦屋書店内にて開催します。2019年秋冬コレクションのテーマである「英国文学」のムードと会場のライブラリー空間を融合させ、過去から未来に繋がるDAKSの世界観を表現。初公開となるアーカイブの展示やライブペインティングのパフォーマンス等、英国らしいユーモアあふれる演出で皆様をお迎えします。

日時
3月21日(木・祝)~ 3月24日(日)
10:00~22:30
場所
GINZA ATRIUM
(GINZA SIX 6 階 蔦屋書店内)
イベント詳細
https://daks-japan.com/news/3846/